”文化とともに地域を残す”300年後の未来を見据えた「五條 源兵衛」の挑戦とは
この記事は『五條 源兵衛』の料理長、中谷曉人さん(以下、「中谷さん」)へのインタビュー記事part2です。
part1の記事では株式会社あすもとして運営されている『五條 源兵衛』『やなせ屋』についてや、『五條 源兵衛』で提供されている食材、コロナの影響などについてお伺いしました。
今回は五條市に焦点を当て、中谷さんと五條市の繋がりや、『五條 源兵衛』『やなせ屋』を通して五條で挑戦したいことなどについてお聞きしましたので、ぜひご一読ください。
五條という地域とのかかわりとこれから
ーー創業について創業の時期と創業のきっかけ
中谷さん:五條新町通りが2010年に重要伝統的建造物群保存地区に選定される前に、視察や観光で来られた方のおもてなしをする場が無いと厳しいのではということで、2009年に地域の活性化を応援する会社として「株式会社あすも」をオープンしました。
最初は国や県、市などの支援を受けながらゆっくりとスタートしていき、今後、若い人たちが担っていくためにNPOではなく営利団体とし、一番最初の事業としてレストランを始め、その1年後には宿を開始しました。
本当はもう少し、宿やお土産屋さんなどもやっていくという構想もあったのですが、どうしても地域ごとなので、近隣の方への影響なども考慮して一旦はレストランと宿をしているという状況になります。
どうしても地域の方々には当時から「葉っぱしかないでないお店」と思われていたのですが、やっぱり僕が考えるのは短期目標じゃなくて長期目標で、その地点に到達したら時代が追いついてくるぐらいで考えているので。やはり、身近な目標って叩かれやすい目標が多いですね(笑)
ーーでも今、10年経って追いついたっていうことですよね?
中谷さん:そうですね、時代が追いついて来たんで。だからまた先の事を考えないといけないかなと思っていますけど。野菜を食べるなんて、15、6年前には多分そんな想定もしてないだろうし。
ーーそうですね。野菜なんて…みたいな。
中谷さん:基本的にそうですよね。この御所市・五條市の地域って言うのは頂き物文化が多くて、例えば世間では「おせっかい」とは言われますけれども、全然知らない人がみかんを段ボール箱に入れて玄関に置いてくれてるとか、あるいはドアノブにかけてくれているとか。
要するに、顔は見えないけれども意外と地域の中で繋がってるっていう。そういう村文化がまだまだ残ってる地域ですから、そこに対してお金を使うっていう文化が無い地域だったんだと思いますね。
だから、会社の創業から考えると多分そこまでの想定はしてなかったかもしれないですね。
どちらかというと、私が勝手に「野菜のレストランにするから」と言ってしまったが故に、責任を感じてますけど。皆さんから考えると、当時は絶対にしてほしくなかったと思いますし、「居酒屋にした方が良いのにな」というのが絶対的にあったと思います。
ーーそうですよね。数字が取れるのはどっちってなったときに、やっぱり「居酒屋の方が…」ってなってしまいますよね。
中谷さん:やっぱり地域の方が来てお金を落としてくれてお酒の売り上げがあった方がっていう考え方になるんですけど、根本的に重要伝統的建造物群保存地区に選定されて、地域外から来た人を招き入れて楽しんでもらうということを考えた時に、もし地域の方々がワイワイ酒飲んでいたら地域外から来た人が楽しくないじゃないですか。
と、お伝えするんですけどあまり分かってもらえず。だからすごく難しいところだったんですが、ラッキーなことに当時50代や60代の方と、僕が20代の頃の話だったので、年齢差がありすぎたのでよかったです。おじいちゃんと孫みたいな感じの勢いで話しをさせていただいたので。
ーーそこは理解していただいて…
中谷さん:もう「できるんやったらやってもいいよ」「いいじゃん、失敗しても」って感じでしたね。だから失敗する前提ですよ(笑)「やったらええねん、好きに。失敗してから別の事やってくれたらいいんちゃう?」っていう状態から、今に至ってるので。
ーーじゃあ今の成功はその時があったから・・?
中谷さん:実際は、その人たちが支えてくれたおかげで今があるから。大手を振って「自分が」というよりも、みなさんのおかげでできたことで、野菜も農家さんが居なかったら使えないし、色んな意味で地域の方に助けていただいているので。
今後の地域貢献に関しては、これまで恩恵ばかり受けているので、それを何かしらどこかで返すことができないかなというのがずっと考えている課題の一つです。
ーー今、課題が出たのですが、他に人口減少や僻地だとか、地域性による課題とかもあると思いますが、そういったところはどうでしょうか?
中谷さん:実際、関東からこれだけ人を誘致出来ているので、一切思ったことはないですね。
ーーそうですよね、市内に目を向けているわけじゃないですしね。
中谷さん:外からの人の誘致ができているので「人が来ない」と思った事は一切なく、ただ、広報の仕方はそんなに得意じゃないのでそこはもうちょっと考えなきゃいけないんですけども、一方であまり来られても困る地域ですので。
そう考えると、ある意味これぐらいのプロモーションでいいのかなと考えてます。あまりに人が遊びに来て「移住もしたいです」ってなって人口も増えていったとしたら、多分落ちる時もあると思うんですよね。そこをあまり感じずにこう、さざ波くらいで増えていくのがいいんじゃないかなと。
ーー人が人を呼ぶじゃないですけど、そこが一番ですか?
中谷さん:そうですね、ご紹介制度を取っているのはそれが理由ですね。
例えば、誰かが3人くらい連れて来てくれた時には「今日は○○さんのご紹介なので特別コースになります」「次回予約される際は、必ずお名前言ってくださいね」と、お伝えするんです。それで「前回、○○さんと一緒に来た△△ですけど、今度この人の誕生日で行きたいんですけどお願いできますか」となったときに、「じゃあ分りました」ということで。
このように連結させていくようなサービスを心がけているからこそ「○○さん」と、名前を必ず言います。スタッフ同士もそうなんですけど。
だいたいテーブル番号で「1番さんお会計です」とか言いますよね。でも初めての方でも、うちは必ず予約なんで名前がわかるじゃないですか。
全然知らない人でも、スタッフ間で名前を刷り込んでいくようにして「この人は○○さん」だと。じゃあ次来られたときには「○○さん、先日はありがとうございました」と。
こういった形をとって、年に1回とか一生に1回でも、出会った人が”源兵衛にまた来たいな”と思うような事を仕掛けるようにしてたら、要するにご紹介が増えてきたという流れです。
あとは言い尽くせないところがひとつの良いところで。
「ここに来て食べて良かったよ!」「なにが良かったん、どこが良かったん?」というやり取りになったとして、例えばステーキハウスさんに行くと「いやあ、シェフの肉裁きが良かってん」とか、焼肉に行ったら「お肉が美味しかった」って言えるんですけど、うちの料理は説明ができないんで。(笑)
ーー私も当帰をいただいたことを知り合いに伝える際に「葉っぱ食べてん(笑)」って、それ以上うまく説明できなかったです。(笑)
中谷さん:「どうなん?どう出てきたん?どうなったん?」って聞かれても、「いやあ…それがな…まあ行ってみてよ(笑)」ってなりますよね。
ーーそうですね。これは体験をしないと伝わらないですね。笑
中谷さん:だから「とりあえず行ってみて!」ってなったら、「どんなことをしてくれるんやろう?」ってそそられるじゃないですか。(笑)
五條の宝物に気づきそれを伝える役目を担う
ーー五條市を創業の地に選んだ理由と五條市とのつながりをお聞かください。
中谷さん:五條市を創業の地に選んだ理由は、こういう建物を保存してくれてた人が居たので「その地をそのまま貸していただけるんであれば使いたいです」みたいな話で創業が始まりまして。
1半年ぐらいかけて回収している中で、「五條の良さってなんだろうなあ」って思って。自分で歩いたり、色んな人の紹介で農家さんに行ったりしたときに、歩く目線って大事だなと思って。
目の前には吉野川が広がっていて、歴史的な街並みもあって、そんな中で畑に行けば自然の野菜たちを育ててくれてる。僕たちが育てるんじゃなくてプロが育ててくれている野菜たちがこんなに、しかも種類が多品目で色んな品種があって。
さらには益田くん(益田農園)みたいに奈良県最大の農家さんもいるという。色々なものが共存できている五條市ってすごいと思うんですよね。
南に行けば、西吉野に日本で1番後継者のいる柿農家さんの集まりがあったりとか、”儲けるビジネスとしてのコンテンツ”と”継続としてのコンテンツ”が混在してますけど、今まではそれを繋げる人たちもいてなかったんですよね。
もっと宝物(野菜)を持ってる人たちを前面に出せるような情報発信基地みたいなものがあればいいなと思います。
当時はまだSNSが盛んではなかったですけど、ここ5年くらいで農家さんと食べる人達がお友達になることが多くなってきて、そしたらプロモーションもしやすくなってきました。SNSで農家さんの名前がタグ付けされていると、「あっ、あの人が野菜を作ってはるんや」「買ってみようかな」となって、初めて本物の味が分かるというか。
まあ、今でこそ産直市場とか百貨店、スーパーも頑張って農家さんの野菜を売るっていう風になりましたけど、今までは収穫された野菜を次の日に食べれるって事はまず無理だったと思うんです。けれども、今なら普通にSMSで益田農園に「キャベツ1ケース欲しいんですけども」ってメッセージを送れば、忙しくない限りは対応してくださって、そこから買いに行って持って帰れる。それで家に帰ってから食べてみて、キャベツ本来の味がわかる。
収穫されてから食べるまでの時間が短くなっていることによって、食材の本来の美味しさが分かるんじゃないかなと思っていて、そのきっかけを与える側になりたいなと。農家さん側からすると手間が増えるのかもしれませんが、一方で利益率が上がってそこから違う作物も作ろうかなと思っていただいたり、もうひと手間かけて新しく肥料買おうかなとか思っていただいたりするのかなと。
ーー私も益田農園さんのとうもろこしをいただいたことがあるんですけど、今まで食べていたとうもろこしは何やったんやろうって思うくらい、美味しさにビックリして。
中谷さん:昔から五條のとうもろこしはおいしいんですよ。でもほぼ全部関東のほうに出荷されるんで、地域の方は食べてないんですよ。採る時間もタイミングも勝負なんで。
ーー朝採りなんですよね?
中谷さん:はい、暗いうちから収穫し始めて。だからこそ”本物”というと言葉に語弊があるかもしれないですけど、同じ黄色くてつぶつぶがついている”とうもろこし”なんですけど、食べ比べると違うんですよね。
ーーほんまにビックリしましたもんね。
中谷さん:で、一度食べると戻れないんです。
ーーわかります!
中谷さん:本物を知ると、食べるべきタイミングがわかってくるんです。そこから今、食べるべき物っていうのも見えてくるので。
ーー今は、年柄年中売られているのでわからないですもんね。
中谷さん:もう一回アナログに戻った方が良いというのはそこなんです。あまり無理せず、季節を追わず。
ーー課題のところでなんですけどコロナの影響はどんな感じですか?
中谷さん:もう自信あります、五條市で1番被害を受けてるんじゃないかなと。宿泊棟、飲食店で両方ですし、地域の方に寄ったお店じゃないので他府県から誘致するんですけど、行動制限かかっちゃうとやはり政府の見解に沿って波がありますね。
”あたりまえ”がたくさんある、そんな五條で育む”豊かさ”
ーー今後の展望とか、これからしたいこと、挑戦したいことはありますか?
中谷さん:そうですね、300年後に向けて「ファーマーズ体験」とかは農家さんにお話ししつつ、受け入れてもらえるようなことができたらいいなと思うので。世界から五條に来てもらって、五條から世界に行くということをテーマにしているので、やっぱり世界の国の人たちが来てほしいですね。
ーーテーマがおっきいですね!
中谷さん:そうしといた方が、「日本で1番になる」とかあんまり面白くないなあって思いますけど。世界のどっかで「ああ、なんか中谷って奴がおって面白いな」って話になった方が面白いかなって。(笑)
自分の知らないことを知ることによって、豊かさが増えていくと思うんですよ。だから人間が豊かになるような地域であってくれたら。どこの誰々さんが何をしていたとしても、五條に来たら来る前より豊かになって帰っていただける。そして帰った時にまた五條を思い起こしてもらって、「また五條に来たいよね」って思うようなループができれば。
年間365日ありますけど、全部稼働するのはしんどいとしても半分稼働したとして、150組の人を見つけることができればいいわけですから。この全世界中で150組、五條に来てくれる人にプロモーションをすることができれば、1年の半分が埋まりますから。
だからそういう枠を考えて逆算していけば見やすいですけど、「ここにいっぱい人を呼びたいな」って言う、その”いっぱい”がわからないから”見える化”できないんですよね。
ーー抽象的過ぎてわかりにくい部分が多いんですね。
中谷さん:だからゴールも見据えることが大切で。ゴールした時にはまた、次のゴールを目指して。
ーー中谷さんの次の目標の300年後の未来も
中谷さん:そうですね、成功事例を作らないといけないと思うんです。何も成功事例がなく、ただみんなが事業で成功しているだけなら、ポテンシャルが低いわけですから。
ーーその成功事例を成し得たのが源兵衛さんだと思います。
中谷さん:まだ志半ばなので成功したかどうかは別ですけど。まあ継続できるようにはしたいなとは思います。
ーーそうですね。継続が一番大変ですもんね。当たり前が一番大変…。
中谷さん:その当たり前が実は五條にはあるんですよ。色んな当たり前が良いことなんですね。そういう地域の”良いこと”がすごく集まってるんですけど、それが当たり前すぎて、謙遜してるというか。
ーー褒めてもらうと特に。
中谷さん:そこを変えていって若い人たちが自信をもってくれるような、この地域で生まれ育ってよかったなって思える、そんな五條であってほしいなって思います。
奈良県五條市新町通りの古民家野菜のレストラン『五條 源兵衛』で ”驚きと感動”の体感を!
今回は奈良県五條市の五條源兵衛(株式会社あすも)の料理長、中谷曉人さんにインタビューさせていただきました。
五條の農家さんたちが丹精込めて作り上げた五條の宝物と言うべき滋味深く、力強い野菜たちを使って、”驚きと感動”を与えてくれる『五條 源兵衛』さん。
一度ハマったら抜け出せない”中谷マジック”を、300年の時空を超えた古民家で体験されてはいかがでしょうか?
五條にお越しの際は、ぜひ訪れてみてください!
会社名 | 株式会社あすも |
事業内容 |
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店舗名 |
五條源兵衛(和食レストラン) 旅宿 やなせ屋(宿泊施設) |
住所 | 〒637-0041 奈良県五條市本町2丁目5-17 |
TEL | 0747-23-5566 |
営業時間 |
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ホームページ、SNS等 |